概要
その名の表記・呼称は「エリゼベート・バートリ」とも、またこれらドイツ語形だけでなく出身を重んじハンガリー語形で「バートリ・エルジェーベト」とも、更に中立性を重んじるシーンでは英語形で「エリザベス・バソリー」ともされる。
1560年にハンガリーの名門と謳われるバートリ家に生まれ、自身の美しさを維持する為に「人の生き血」を用いたという史上名高い連続殺人者。言葉巧みに誘い込んだ700人もの娘を殺し、その血で湯浴みをしたという逸話もある。記録では最終的にその悪行が露見し、一切の光を通さない密閉された塔の中に幽閉され、発狂しながら死に絶えたという。
その強烈なエピソードからか、時に創作作品のキャラクターのモチーフ(有名なのはカーミラ、とはいえカーミラ自身は怪物としての「吸血鬼」ではなく、どちらかというと「美しい吸血"姫"と貴族のお嬢様の怪奇百合小説」が近い)として採用されることもある。また、乙女の生き血を欲した姿から“女吸血鬼”といった扱いをされることもある。
ただ、補足をしておくと彼女の親戚は皆奇人変人ばかりで、しかも当時は近親婚が常態化しており、精神的、肉体的に欠陥を抱えていた貴族は決して少なくはなかった。また、彼女が本格的に凶行に走るようになったのは黒騎士とあだ名された夫ナーダシュディ・フェレンツ2世との死別の後で(一説では夫が彼女に加虐性をもたらしたとも言われている)、それ以前は生まれながらのエキセントリックな性格と上述の家庭の狂気でおかしな点こそあったものの、それなりの慈善事業も行っていた。
更に言うなら彼女の罪は「少女を殺害して血浴びをした」事ではなく「貴族の令嬢に手を出した」事である。当時の価値観として「下々の民を殺して回るのが趣味」というのは貴族に限り「悪趣味」で済まされていた。それが貴族にまで広がったため裁かれた、というのが実情であり、別に彼女が特段イカれていたというわけではない。
また、「貴族社会」にはありがちな「中傷目的の謀略」によるネガティブキャンペーンが完璧にハマっただけの冤罪の可能性も存在する。日本では、殺人鬼として数々尾逸話が有名になってしまっているが、実際はこちらの冤罪説が最有力である。
当時、彼女は女性にしてかなりの地位及び財力、そしてそれらに伴う政治権力を所有していたことから、財産目当てに濡れ衣を着させられた可能性が高い。
また、慈善事業等をおこなっていた事で領民から人気があったため、彼女の領地を無理に奪っても領民に反対され、ひいては国に口出しされ新しい領主が派遣されるだけになる可能性がある事から「悪徳領主から領民を救う」という建前のもとに自分の手のものを後釜に据え、実質的な領地拡大を行うのが目的の誰かが嘘の噂を流したという話が一説としてある。(実際彼女の使ったとされる拷問器具で有名な鉄の処女は使用された形跡がなく、そもそも殺傷能力が低すぎるためイメージ通りには使えない事が明らかになっている。)
人の生き血を「浴びる」ことでアンチエイジングになる、という言説に科学的根拠はないが、若者の血液を輸血することが若返りに効果があるというのは、スタンフォード大学やハーバード大学の研究者も実験するような真面目な学説である(若い血液が「若返り」の万能薬になる? 米国で次々に誕生したスタートアップの思惑)。
もちろん、彼女が輸血を行ったとする説があるわけではなく(そもそも記録に残る世界初の輸血とされるフランス人医師ジャン=バティスト・デニによる羊の血を使った治療が1667年の出来事であり、瀉血ならともかく、彼女の時代にはまだ輸血などという概念はまだ一般的ではなかった。輸血の歴史)、浴びただけで若返ったならプラシーボ効果によるものと考えるのが妥当だろう。
また、ただ浴びたのではなく経口摂取した(つまり、文字通り「生き血を啜った」)のならば何らかの健康効果があったと考えることもできる。ブーダンをはじめとしたいわゆる「血のソーセージ」という食文化が欧州各国に存在することも傍証となるが、血液の栄養学的効果については、(特に月経や妊娠の関係で女性は不足しやすい)鉄分を豊富に含む食品であることは否定できない。科学的根拠というわけではないが、いわゆる「同物同治」(体の悪い部分を治すには、同じ部分を食べると良いという考え方。肝臓が悪い人はレバーを食べよ、ということ)の思想から言っても、全身を巡っている血液を健康な若者から摂取して若返る、というのはそれほど無理のある考えではないだろう。もちろん、飲血を含む食人にはプリオン病などの危険が伴うので、安易な健康法として試すことは絶対にダメである(食人によるプリオン病の実例)。
ちなみに、よく彼女が女性の血を摂取するために使ったと言われる「鉄の処女」(「アイアンメイデン」)は全く無関係のこじつけ設定であり、そもそもそのような拷問器具は存在しない。現在各国で展示されている鉄の処女(アイアンメイデン)は再現品に過ぎない。
なお、ハンガリーでは先述したように、名前は姓が先である。これに沿えばバートリ・エリザベート(または形も合わせバートリ・エルジェーベト/Báthory Erzsébet)と書くのが、より正確である。ただし、ハンガリーの周辺国は、すべてが名のほうが先にくるため、ハンガリー人自身、外国人に自己紹介するときは、名を先にする事も多い。
関連イラスト
関連タグ
エリザベート・バートリー(表記揺れ)
創作上での扱い
バンパイアキラー
上記の人物をモデルにしたキャラクター。こちらは表記揺れの「エリザベート・バートリー」を使用している。過去のシリーズで倒されたドラキュラ伯爵の姪にあたる女吸血鬼で、300年前に処刑された後1900年代初頭の世界に蘇る。本作の世界において第一次世界大戦を引き起こした張本人であり、ヨーロッパ中の人間の魂を生け贄に、ドラキュラを復活させるべく暗躍する。
最終ステージの舞台となるイギリスのプロセルピナ城にてプレイヤーを待ち受け、戦闘の途中にはメデューサに変身する。下僕としてドロテア・ツェンテスという老婆がおり、エリザベート打倒後に復活したドラキュラ伯爵と共に戦うことになる。
Fate/EXTRA-CCC
「エリザベート・バートリー」名義で登場。通称「エリちゃん」。
結婚する前の少女の姿で召喚され、「みんなから愛されチヤホヤされる偶像」という要素を気に入り日本のアイドルに傾倒している。
詳細はランサー(Fate/EXTRA-CCC)を参照。
Fate/Grand Order
上記のエリザベートと別にその成れの果てが別名義で登場。詳細はカーミラ(fate)の記事へ。
バイオハザードヴィレッジ
オルチーナ・ドミトレスクのモチーフ元の1つがエリザベートではないかとされている。
日常生活で侍女をいたぶりその血を芳醇のワインの生成や入浴に使うなど、その狂気はともすればエリザベート以上。
アイ★チュウ
楽曲「裏切りの果実」は、エリザベートを題材としている。